SUS304などオーステナイト系ステンレス鋼への固溶化熱処理

固溶化熱処理 概要

SUS304などのオーステナイト系ステンレス鋼は加熱、応力などの影響により以下に掲げる2点の不具合が生じる。

  1. (1)不動態皮膜であるCrの非晶質な水酸化物(CrO・OH・nH2O)および酸化物(CrO3・mH2O)に欠乏層が発生し耐食性を著しく損なう。
    これは加熱によりCr23C6が析出し、その近傍の組織はCr濃度が5%程度にまで低下することもあり、不動態皮膜の生成が著しく損なわれて欠損部が生じることによる。 この対応としては、Ti、Nbが添加されCがこれらの炭化物として固定されたSUS321、SUS347もしくは低炭素のSUS304L、SUS316Lなどの通称“L材”の使用によりCr23C6の析出を防止してCrの低濃度化を阻止する方法がある。

  2. (2)オーステナイト系ステンレス鋼に応力が掛かるとマルテンサイト系へと結晶構造が変化し強磁性体(磁石に付く)となる。
    これはオーステナイトが面心立方晶であるため常磁性体(磁石に付かない)であるが、体心立方晶であるマルテンサイトになると強磁性体となり磁石に付くようになる。応力によるマルテンサイト化を多少でも防ぐのであれば、マルテンサイト変態を生じ難いSUS305、SUS316などの使用を勧める。



固溶化熱処理の功罪

JISによれば、SUS304の固溶化熱処理は1010~1150℃に加熱し急冷することとしている。この温度に加熱する理由は、低温で析出した合金元素を基地中に混然一体となる様に溶け込ませ、その状態を急冷によりオーステナイト組織の単相として保持することにある。

この処理方法の利点は、加熱温度をより上げることでCなどを十分に固溶はさせることである。オーステナイト組織での確実な固溶は、オーステナイト単相の組織を生み出して耐食性を著しく向上させる。
欠点としては高温に長期保持する事での結晶粒粗大化を招くおそれである。 また、冷却速度は大きいほど好ましいが、急冷による熱ひずみでの変形も考慮しなければならない。


(文責 木村栄治)
材料化学研究会 熱処理部会長

木村栄治
材料化学研究会 熱処理部会長
東京大学先端科学技術研究センター研究員、職業能力開発総合大学校東京校准教授を歴任。
造船、自動車および自動車部品メーカーへ熱処理の技術指導を実施。


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