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固溶化処理とは何ですか?
まず固溶化処理を説明する前に『鋭敏化』という現象について説明いたします。ステンレスは500℃~800℃までの温度域に長時間さらされますと鋭敏化という現象が出てきます。長時間といっても代表的な鋼材SUS304では1~2時間でも鋭敏化させるには十分な時間です。
鋭敏化すると、ステンレスはどうなってしまうのか?本来から備わっている耐食性を弱めてしまいます。簡単に申し上げると、錆びやすくなりますし、壊れやすくなります。そこでこれらの問題点を解消するために固溶化処理を行います。
鋭敏化とは、ステンレス鋼は高温下でクロムが析出してしまい、ステンレス鋼の表面にクロムのない領域ができてしまう現象です。ステンレス鋼の表面には、クロムと大気中の酸素が反応してクロム酸化物ができます。クロムが足りない領域ではクロム酸化物ができません。クロム酸化物はステンレス鋼の表面に強固な保護膜を形成し、錆びから鋼材を守る役割を果たしています。しかし、クロムが不足すると保護膜が脆弱になり、錆びやすくなってしまいます。このクロム酸化物を不働態被膜といいます。
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固溶化処理は、高温下でステンレス鋼を加熱し、クロムの周りにクロムがない領域を再分布させることで鋭敏化を解消する方法です。この処理により、ステンレス鋼の耐食性が向上し、錆びやすさが減少し、強度も向上します。固溶化処理は、ステンレス鋼の種類や使用目的に応じて異なる温度と時間で行われます。一般的には、高温で数時間加熱し急冷する方法が用いられます。 急激に冷やすということは、処理品自体の曲がりや反りなどの歪が発生する可能性がありますし、寸法変化も考慮しなければなりません。
固溶化処理は、ステンレス鋼を加工する際に必要な工程の一つであり、ステンレス鋼の性能を最大限に引き出すために必要な処理です。また、固溶化処理は、ステンレス鋼以外の金属材料にも適用されることがあります。
固溶化処理の効果
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①Cr炭化物およびシグマ相を固溶させる
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②再結晶させて軟化させる。
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③耐食性が最もよい状態にする。
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④内部応力が除去される
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当社の固溶化処理サービスについて
真空炉で行います。1000℃以上に加熱したのち一定時間保持し、その後窒素ガスにて急冷します。 着色がなくきれいな仕上がりです。
- 神奈川県 本社 真空炉
- 岩手県 東北事業所 真空炉
- 静岡県 東海事業所 真空炉
固溶化処理のメリットとは?
本来備えている耐食性を引きだすことができます。耐食性の違いは以下の資料で確認できます。
焼鈍をした場合、固溶化処理をした場合、機械的性質はJISで規定されている値を双方満たしましたが、ぞの破断面をSEMを使って確認しますと大きな違いがありました。
固溶化処理のプロセスと実施例
固溶化熱処理の事例1
溶接したステンレス(SUS304)の粒界腐食対策
SUS304のようなオーステナイト・ステンレスでは溶接後には粒界腐食対策として固溶化処理するのがベストです。さまざまな理由からそれが採用できない時は次の最善策としてSUS304Lや316Lなどの低炭素ステンレスを選定して応力除去焼鈍することが考えられます。 一般的ではないですがチタン添加したSUS321やニオブを添加したSUS347(安定化ステンレスと言う)も粒界腐食対策としては有効です。
- SUS304 焼鈍後
- SUS304 固溶化処理後
固溶化熱処理の事例2
SUS304を加工したら磁石に強く反応するようになりました。固溶化熱処理によって磁性を取り除きました。
固溶化熱処理の事例3
熱処理済みのインコネルのバネの再熱処理
時効硬化処理を再処理すると『過時効』という状態になる可能性があります。過時効とは、硬化のために熱処理を施しているわけですが、最適とされている時間以上に処理することで、さらに硬度を増すわけではなく硬度を落とすまでに変化してしまいます。 対策として、再処理の前に固溶化処理をして再度、時効硬化処理を行います。 参考) 熱処理ノート 大和久重雄 著 (日刊工業新聞社)
固溶化処理の品質管理と品質保証
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当社では鋭敏化測定器をつかって鋭敏化度を測定することができます。 このことによって将来起こる可能性がある粒界腐食割れなどに対するエビデンスを事前に取ることができ重大事故の防止に役立ちます。
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固溶化処理をする主な材質
材料 |
SUS201、SUS202、SUS301、SUS302、SUS303、SUS304、SUS304L、SUS316、SUS316L、SUS321、SUS347、SUS329、SUS630、SUS631、インコネル、ハステロイなど |